名古屋地方裁判所 昭和34年(ヲ)284号 決定 1960年6月20日
申立人 田村久夫
被申立人 国
訴訟代理人 林倫正 外二名
主文
本件申立を却下する、
申立費用は申立人の負担とする。
本件につき当裁判所が昭和三四年一一月九日附でした強制執行停止決定を取消す。
理由
申立人代理人の申立の要旨は「相手方が申立人に対する名古屋地方裁判所昭和二九年(ワ)第一、四八一号建物収去土地明渡請求事件の判決の執行力ある正本に基いて別紙目録記載の建物(以下本件建物と称す)につき強制執行をすることは許さない、申立費用は相手方の負担とする、との決定を求め、その申立の理由として、相手方は前記執行力ある正本に基いて名古屋地方裁判所執行吏に対し、申立人をして本件建物から退去し、その敷地を明渡さしめる強制執行を委任し、右執行吏は右強制執行にあたつて昭和三四年八月一一日から同年一〇月一四日まで数回にわたり申立人に対し本件建物からの退去、敷地の明渡を強制し、将来もこれを続行しようとしている。しかしながら前記債務名儀に表示された債務者は申立人とは同名異人である。すなわち、右債務名義には債務者の表示として愛知県西春日井郡山田村大字上小田井二二八番地(後に名古屋市西区山田町上小田井二二八番地と名称変更)田村久夫と記載され、その姓名は申立人と同一であるが、申立人は昭和二七年一二月以降現在に至るまで肩書住所に居住しているものであり、且つ未だかつて相手方との間で訴訟をした事実は全くなく、裁判所から一度も書類の送達を受けたこともない。結局申立人は債務名義に表示された債務者でないのに債務者と誤認せられ不当に執行処分を受けようとしているわけであるが、右執行が違法であることは明らかである。」というのである。
相手方代理人の答弁の要旨は「主文同旨の裁判を求め、相手方が申立人に対しその主張のような執行力ある正本に基き執行吏に委任してその主張するような強制執行をしたこと、右の債務名義に債務者の表示として申立人主張のような記載がなされていることは認めるが、その余の事実は否認する。」というにある。
立証<省略>
そこで考えてみるに、相手方が申立人に対し、債務者の表示として、愛知県西春日井郡山田村大字上小田井二二八番地田村久夫と記載されている申立人主張のような債務名義の執行力ある正本に基き、その主張のような強制執行をしたことは本件当事者間に争がない。そして申立人は右債務者と申立人とは同名異人であるから、右債務名義に基く申立人に対する強制執行は違法であると主張するのであるが、いずれも成立に争のない乙第一号証の一、二同第二、三号証の各二、同第一〇号証に申立人本人尋問の結果を綜合すると、申立人は本件債務名義たる名古屋地方裁判所昭和二九年(ワ)第一、四八一号建物収去土地明渡請求事件の訴提起以前から引続き現在までその父田村久吉とともに本件建物部分を借受けて、これを事務所として電話売買業を営み、以て右建物部分を占有使用してきたものであること、申立人届出にかかる住民票には、申立人が昭和三年一一月二八日出生以来昭和三三年一月一〇日肩書住所に居を移すまでの間、父の住居でもある前記債務名義表示の住所(後に名古屋市西区山田町上小田井二二八番地と名称変更)に居住していた旨の記載があることが認められ、右認定事実からすれば、本件債務名義表示の債務者は余人ではなく、申立人本人であることが明らかである。なるほど、証人田村園子、同森孝雄、同塚本秀三郎の証言及び申立人本人尋問の結果によれば、申立人の住所について、昭和二七年末以来、住民票の記載にかかわらず現実に居住していた住居が肩書住所であることを窺えないでもないがこのような事実をもつてしても、債務者と申立人が同一人であるとする右判示に影響を及ぼすものではなく、その他右認定を覆すに足る証拠はない。
なお申立人は、未だかつて相手方との間で訴訟をしたことなく裁判所から一度も書類の送達を受けたこともない旨主張するけれども、かかる主張は債務名義成立過程における瑕疵を理由とするものであつて、執行機関の執行方法たる裁判又は処分の違法、不当から執行当事者又は利害関係人を救済する訴訟法上の手段である執行方法異議の申立によつては、許されないものといわなければならない。
よつて本件申立は、その理由がないこととなるから、これを却下し、本件につき当裁判所がさきになした強制執行停止決定を取消し、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 杉浦竜二郎)